有害なアリストロキア酸を含むハーブによる健康危害

画面を閉じる

 

 

発信者

構築グループ

本文

有害なアリストロキア酸を含むハーブによる健康危害

アリストロキア酸とは?
 アリストロキア酸(aristolochic acid)はアリストロキア属(Aristolochia属)の植物に含まれている成分で、腎毒性、発がん性や変異原性が示されています(PMID:8094166) (PMID:10841870) (PMID:11766606)。Birthwortとよばれるハーブ、ならびに生薬に含まれていることから、それらのハーブを添加した健康食品、あるいは生薬に関する注意情報が国内外の政府機関から出されています(厚労省その1 厚労省その2 EMEA 中国 SFDA 香港衛生署 米国 FDA)。ハーブは「香りなどに関連した植物」というイメージでとらえられている場合もありますが、実際は「薬効を持つ植物」を意味しています。そして場合によってはアリストロキア酸を含む植物が添加されている可能性もあります。アリストロキア酸の構造は図1に示したとおりです。また、有害なアリストロキア酸を含む、あるいは含んでいる疑いのある植物の詳細なリストは米国 FDAから出されています。ウェブページはこちらから。


図1 アリストロキア酸(10-nitro-phenanthrene-1-acids)の構造

アリストロキア酸が関係した過去の健康被害事例
ヨーロッパ
 ヨーロッパで発生した健康被害が最もよく知られています。1990年〜92年、ベルギーにおいて出回った漢方薬入り痩せ薬を摂取した人で腎障害が発生し、被害者は腎臓に重大な障害を起こし、透析や腎移植を受けることとなりました(PMID:8094166)。その後、被害者には尿路系のがんの発生が報告されています(PMID:10841870)。健康被害を起こした問題の痩せ薬には腎毒性や発がん性があるアリストロキア酸を含む「生薬」が添加されており、それが健康障害の原因と考えられています。
 バルカン腎症(クロアチアやセルビアなどバルカン半島の国の農家に流行していた腎不全と尿路ガン)は、小麦に混在していたbrithwort plant (ウマノスズクサ) が原因と考えられています(PMID:17620607)。ウマノスズクサはウマノスズクサ科Aristolochiaceaeに属し、有害なアリストロキア酸を含んでいます。

日本
 日本においても1996年から97年に関西において関木通(カンモクツウ)とよばれる中国製生薬を配合した健康食品を摂取した人に腎炎の発生が報告され、該当する健康食品からアリストロキア酸が検出されています(PMID:10809420) (PMID:11334387)。その後も下記に示した類似の症例報告が出されています。

症例報告1: 19歳女性が、約20種の自然薬草よりなる「中国製のいわゆる漢方薬」を個人輸入し、約3年にわたりアトピー性皮膚炎に使用したところ、アリストロキア腎症を起こした。問題の商品には関木通が添加されており、アリストロキア酸が検出された(1)。

症例報告2: 58歳女性が、進行性腎線維化を伴うクレスト症候群(皮膚硬化症の一種)と診断された。40歳時よりレイノー現象があり、43歳より57歳まで中国ハーブを飲用していた。服用中の中国ハーブを分析したところ有害なアリストロキア酸が検出された(2)。

症例報告3: 33歳女性が、5ヵ月前から不妊症に対して、近医の指示で中国ハーブから抽出したアリストロキア酸を含む「いわゆる漢方薬」(当帰四逆加呉茱萸生姜湯)を服用していたが、1ヵ月前から食欲不振、微熱、頭重が起り、著しい貧血、代謝性アシドーシス、低リン血症、アミノ酸尿、糖尿があり、入院した。腎不全が進行し、18ヵ月後血液透析を始めた。中国ハーブによる特徴的な糸球体障害が想定された(3)。

症例報告4: 48歳男性が、血清尿酸値を下げるために薬局で「生薬製剤」を購入したところ、内服開始6ヵ月後より多飲多尿、全身の脱力感が出現、9ヵ月後に筋痙攣が出現した。尿蛋白、尿糖、著明な貧血、高度の腎機能障害、高カリウム血症、高Cl性の代謝性アシドーシスがみられ、腎不全による尿毒症症状により血液透析を開始し、慢性間質性腎炎と診断された。本例の服用していた漢方薬にアリストロキア酸が高濃度に含有されており、アリストロキア酸腎症と診断された(4)。


中国
 中国では最近までアリストロキア酸(中国名は馬兜鈴酸)を含む生薬が「いわゆる漢方薬」に添加され、その製品の利用による健康被害が報告されています。特に尿道炎、膀胱炎、前立腺炎などの泌尿器系の疾患に利用されている「龍胆瀉肝丸(リュウタンシャカンガン)」の使用で発生した健康被害が社会的に注目されました。中国国家食品薬品局(SFDA)は、馬兜鈴科生薬である関木通(カンモクツウ)、馬兜鈴(バトレイ)、青木香(セイモッコウ)、尋骨風(ジンコツフウ)、広防已(コウボウイ)、朱砂蓮(シュシャレン)からアリストロキア酸が検出され、天仙藤からもアリストロキア酸類物質が検出されることを公表し、03年にアリストロキア酸を含む一部の生薬の利用を禁止する通知を出しています(その1 その2 )。中国において1988年から2004年3月までに馬兜鈴、青木香、広防已、朱砂蓮により起こった腎障害の事例は31例あります。下記の表はその概略をまとめたものです。

表1 アリストロキア酸が関連した健康被害報告事例
含有される生薬問題のいわゆる漢方薬例数被害報告
青木香中薬湯剤1急性腎機能障害
冠心蘇合丸25(5例は他の関木通含有製剤併用)慢性腎機能障害
舒肝理気丸1慢性腎機能障害
馬兜鈴二十五味松石丸1慢性腎機能障害
広防已中薬湯薬2(関木通併用)慢性と急性人機能障害各1例
朱砂蓮中薬顆粒剤1慢性腎機能障害
中国 SFDA の通報より作成)

アリストロキア酸を含む生薬の現状
 日本の薬局方で認められている生薬にはアリストロキア酸は含まれていません(5)。生薬の場合、名称が同じでも使用部位や植物が国によって異なることがありますので、海外から健康食品や「いわゆる漢方薬」を個人輸入する場合は注意する必要があります。アリストロキア酸が関連した生薬の日本と中国の関連情報を表2と3に示しました。

表2 アリストロキア酸を含有するハーブと間違いやすい名称をもつハーブ

赤字:アリストロキア酸を含む植物および部位
※1 中国で使用禁止となった生薬
※2 中国では医師の処方が必要とされる生薬

表3 アリストロキア酸を含有するその他のハーブ
※これらのハーブは日本の薬局方には収載されていません。

赤字:アリストロキア酸を含む植物および部位
※2 中国では医師の処方が必要とされる生薬

参考文献

(PMID:8094166) Lancet. 1993. 341(8842):387-91.
(PMID:10841870) N Engl J Med. 2000. 342(23):1686-92.
(PMID:11766606) Zhonghua Yi Xue Za Zhi. 2001 81(18):1101-5.
(PMID:10809420) Clin Nephrol. 2000. 53(4):301-6.
(PMID:11334387) Intern Med. 2001. 40(4):296-300.
1. 臨床薬理 2000 31巻6号: 693-699.
2. Internal Medicine 2001 40巻10号: 1059-1063.
3. Clinical and Experimental Nephrology 2004 8巻3号: 283-287.
4. 日本腎臓学会誌 2005 47巻4号 474-480.
5. Sekita S et al; 国立食品医薬品報告1998 116:195196.
(PMID:17620607) Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Jul 17;104(29):12129-34. Epub 2007 Jul 9.