アミグダリンについて (ver.090219)

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アミグダリンについて

■アミグダリンとは?
 アミグダリン (amygdalin) は、アンズ、ウメ、モモ、スモモ、アーモンド (ハタンキョウ) 、ビワなどのバラ科サクラ属植物の未熟果実の種子にある仁<じん>に多く含まれる青酸配糖体です (下図参照) 。同じバラ科植物にはプルナシンという青酸配糖体もあります。青酸配糖体は、微量ですが未熟な果実の果肉や葉、樹皮にも含まれています。

■アミグダリンはビタミンではありません。
 過去にアミグダリンをビタミンB17と呼び、ビタミンとする主張がありましたが、現在では否定されています (PMID:15061600) 。これはアミグダリンが生体の代謝に必須な栄養素ではなく、また欠乏症も報告されていないためビタミンの定義には該当しないからです。従って、アミグダリンをビタミンB17と呼ぶことは適切ではありません。アミグダリンはレートリル (laetrile) と呼ばれることもあります。なお、ビタミンの定義は、「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず自分で作ることができない化合物」です。

■アミグダリンの作用
 アミグダリンを含む果実を傷つけたり、動物が食べたりした時、アミグダリンは果実の仁に存在するエムルシンという酵素や動物の腸内細菌のβ−グルコシダーゼという酵素によって分解され、シアン化水素 (青酸、HCN) を発生します。シアン化水素は非常に強い毒物で、細胞のミトコンドリアに存在するチトクロムCオキシダーゼという酵素に結合し、細胞の呼吸を阻害します。アミグダリンの多量摂取による有害作用としては、悪心、嘔吐、頭痛、目まい、血中酸素の低下による皮膚の青白、肝障害、異常な低血圧、眼瞼下垂、神経障害による歩行困難、発熱、意識混濁、昏睡、死亡などが知られています (1) 。
 

 果実が成熟するとアミグダリンは酵素のエムルシンにより分解されて糖に変わるため、果肉中の青酸配糖体は消失していきます。また梅干しや梅酒、梅漬けなどの加工はアミグダリンの分解を促進すると言われ、それらの加工品ではアミグダリンの影響は非常に僅かであると考えられます。一方、仁のアミグダリンは果肉に比べて高濃度で、成熟や加工によるアミグダリンの分解も果肉より時間がかかります。なお、アーモンドには甘味種と苦味種の二種類があり、食用である甘味種はアミグダリンを含みません。
 アンズやモモの仁は、生薬の材料 (杏仁<キョウニン>、桃仁<トウニン>) でもあり、アミグダリンを薬効成分として経口で去痰・鎮咳などの用途に利用されています (2) 。また正常な皮膚に塗布すると局所麻酔 (かゆみを止めるなど) の作用があります (3) 。青酸はごく少量であればミトコンドリアの酵素 (ロダナーゼ) の作用により、毒性が弱く排泄されやすい形に変換されます。これは毒も少量を上手に用いれば薬に転じる典型的な例です。ただし上記のような目的での利用は必ず医療従事者の監督の下で行う必要があります。

■アミグダリンとがんとの関連
 アミグダリンの抗がん作用については長期間にわたり議論が続けられてきました。米国の生化学者Ernst Krebsがビターアーモンドの仁から抽出したレートリル (=アミグダリン) ががんの増殖を抑制するとの説 (4) を唱えたことから、米国やメキシコを中心にがんの治療に用いられた時期がありました (5) 。しかし、米国国立がん研究所 (NCI) は、レートリルの効果を検証した臨床研究 (PMID:7033783) に基づき、『レートリルはがんの治療、改善および安定化、関連症状の改善や延命に対しいずれも効果がなく、むしろ青酸中毒をおこす危険性がある』(1) (PMID:15061600) という結論を出しています。現在、FDA (米国食品医薬品局) は米国内でのレートリルの販売を禁じています。それにもかかわらず、レートリルは現在でも「アミグダリン」や「ビタミンB17」などの別名でインターネットなどで流通している実態が報告されています (PMID:11444247)

■アミグダリンによる健康被害
 アミグダリンについては、俗に「アミグダリンはビタミンの一つ」「アミグダリンの欠乏ががんや生活習慣病の原因となる」「アミグダリンはがん細胞だけを攻撃する」などとうたわれています。これらの科学的根拠は現時点で確認できていない、あるいは否定されているにも関わらず、アミグダリンの効果を強調した健康食品が後を絶ちません。
 アミグダリンは日常摂取しているウメ加工品の仁にも微量ながら含まれていますが、食品として常識的な量を摂取する場合には健康被害の危険性はそれほどないと考えられます。しかし、特別な効果を期待して過剰に摂取することは、期待した効果が得られないばかりか思わぬ健康障害を招く危険性をはらんでいます。アミグダリンを多量摂取したヒトで健康障害を起こした例が報告されています。

症例1:
 65歳の肝硬変を併発した肝臓がんの女性患者が、3 gのレートリル (アミグダリン) を摂取し、深い昏睡、低血圧、アシドーシスを呈した。初期治療の後一旦は意識が回復したものの、重篤な肝障害により死亡。レートリルの毒性が肝細胞壊死に関与することが示唆されている (PMID:3003927)

症例2:
 オーストラリアで68歳の女性がん患者が、アミグダリン3 gを摂取した直後に昏睡、痙攣、重度の乳酸アシドーシスを呈し緊急搬送され、気管挿管と人工呼吸器の処置を受けた。ヒドロキソコバラミン投与による解毒治療が有効であった。Naranjo probability scaleにより薬物有害反応と判断された。この患者は日常的に1日4,800 mgのビタミンCを摂取していた。ビタミンCは試験管内の実験においてアミグダリンから青酸への転換を促進し、解毒作用に関与するシステインの体内貯留量を低下させる働きがあることから、ビタミンCとの相互作用によりアミグダリンが強い毒性を示した可能性が考えられる (PMID:16014371)

症例3:
 アイルランドで32歳の女性が、無反応、ショック状態、固定散瞳を呈し緊急搬送。低体温、頻脈だが自発呼吸あり。6時間にわたる人工呼吸と陽性変力作用薬の増量を要し、8時間後に回復。合併症として尿崩症を発現。血中チオシアネート濃度の顕著な増加。青酸中毒に対しては種々の解毒薬がある中、本症例においては支持療法のみが有効であった。患者は乳がんで肝臓に転移、在来治療が不成功だったためインターネットで購入した「ビタミンサプリメント」という名のアミグダリン含有製品を摂取していた模様 (PMID:16175068)

参考文献

(1) 米国国立がん研究所ファクトシート(http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/cam/laetrile/patient)
(2) 第十四改正日本薬局方解説書、日本薬局方解説書編集委員会編、平成13年初版、廣川書店
(3) 中薬大辞典、上海科学技術出版社・小学館編、初版、小学館(1998)
(4) J Appl Nutr Vol.22, No.3 and 4, 1970
(5) K.M. Krapp, J.L. Longe, The Gale Encyclopedia of Alternative Medicine, Second Edition, Thomson Gale. (2000)
(PMID:15061600) CA Cancer J Clin. 2004 Mar-Apr;54(2):110-8. Review.
(PMID:7033783) N Engl J Med. 1982 Jan 28;306(4):201-6.
(PMID:11444247) FDA Consum. 2001 Mar-Apr;35(2):37-8.
(PMID:3003927) South Med J. 1986 Feb;79(2):259-60.
(PMID:16014371) Ann Pharmacother. 2005 Sep;39(9):1566-9. Epub 2005 Jul 12.
(PMID:16175068) Eur J Emerg Med. 2005 Oct;12(5):257-258.