コエンザイムQ10について

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コエンザイムQ10について
1.概要
■名称等
 コエンザイムQ10は肉類や魚介類などの食品に含まれている脂溶性の物質で、ヒトの体内でも合成されています。また、生物界に広汎に (=ユビキタス;ubiquitous) 分布するキノン構造を有する物質であることから、ユビキノン (ubiquinone) と呼ばれることもあります (1) 。コエンザイムQ10はビタミンではありませんが「ビタミン様物質」として知られています。コエンザイムQ10がビタミンでないのは、体内でも合成されているからです。なお、ビタミンの定義は「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず自分で作ることができない化合物」です。ビタミンならびにビタミン様物質については別の項目を参照してください。

 

 コエンザイムQ10の「10」という数字は構造中のイソプレンという化学構造の繰り返し数を表しています。1つのイソプレンは5個の炭素からできており、10個のイソプレンは50個の炭素数になることから、コエンザイムQ10をコエンザイムQ (50) と表示することもあります。コエンザイムQ10に関する歴史的な事項は表1に示した通りです。

表1 コエンザイムQ10に関する歴史的な事項

1957年

ウィスコンシン大付属酵素研究所のF.L. Craneらがウシ心臓ミトコンドリアより脂溶性物質を単離。電子伝達系に関与する補酵素であり、10個のイソプレン単位からなる側鎖を有することからコエンザイムQ10と命名 (PMID:13445756)

1958年

イギリスのR.A. MortonらがビタミンA欠乏ラットの肝臓より得られた物質がコエンザイムQ10と同一であることを報告。生物界に広汎に分布するキノンであることからユビキノンと命名(PMID:13622652)(2) 。

1958年

ユビキノンとコエンザイムQ10が同一成分であることが見いだされ、K. Folkersらがその化学構造を決定および合成 (3)

1966年

山本がヒト心疾患の治療に類縁物質であるコエンザイムQ7を使用

1972年

G.P. LittarruがK. Folkersと共に心臓病のヒト被験者でのコエンザイムQ10の欠乏を報告 (PMID:5086647)

1973年

日本でうっ血性心不全治療の医療用医薬品として世界で初めて認可される。

1980年代

ヒト被験者を対象とした臨床研究が増え始める。

1991年

日本において一般用医薬品として薬局薬店での販売が認可される。

1990年代

米国を始め世界各国でサプリメントとして流通し始める。

2001年

日本において食薬区分の変更により食品成分としての利用が認可される (4) 。



■体内における代謝等
 コエンザイムQ10の体内における働きは、電子伝達系における補酵素 (コエンザイム) として体内のエネルギー単位であるATP (アデノシン三リン酸) の産生に関与することです。また抗酸化物質としても注目されています (1) 。
 食事から摂取したコエンザイムQ10は小腸で吸収された後リンパ管を経由して血流に入ります。その吸収率は低く、摂取した量の60%は吸収されずに排泄されるという報告があります (11) 。また摂取した量の3%が血漿に分布するというデータがあります (PMID:7883471) 。また、コエンザイムQ10は脂溶性のため、空腹時よりも脂肪の多い食事と共に摂取するとより吸収率が高まると言われます (1) 。
 体内においてコエンザイムQ10は、呼吸活性の高い組織である心臓や、肝臓、膵臓、腎臓、副腎などに多く含まれています。細胞内では主にミトコンドリア内膜、血液中ではLDLなどのリポタンパク質に結合して存在しています。ヒト組織中でのコエンザイムQ10は脳と肺以外では還元体 (ユビキノール) の形態をしています (PMID:1586151)
 西欧型の食生活をしているときの食事からの平均摂取量は一日当たり5〜10 mg、そのときの血漿中のコエンザイムQ10は40%が食事由来、その他の60%は体内で合成されたものと見積もられています (1) 。
 コエンザイムQ10はヒトの体内でも合成されます。コエンザイムQ10のベンゾキノン環の部分はアミノ酸であるチロシンから、イソプレン側鎖の部分はアセチルCoAを経由してメバロン酸から合成されます (1) 。なお、このイソプレン側鎖が合成される過程はコレステロール合成系と共通しています。コエンザイムのイソプレン側鎖の長さは生物によって異なり、ヒトやウシでは10個のイソプレン単位をもつため、Q10と呼ばれています。
 医薬品や健康食品に配合されているコエンザイムQ10は現時点ではテンサイやサトウキビを原料とし、酵母および微生物による発酵や化学合成により製造されています。


2.素材としての安全情報
 コエンザイムQ10は医薬品として用いられてきたことから、健康食品にも医薬品と同じような安全性 (有効性) が期待されている面があります。しかし、同じ成分を含んでいても、健康食品では、商品の品質 (不純物混入の有無) 、商品中の表示成分含量の真偽、摂取したときの体内吸収等の特性は、医薬品と同等ではありません。そのため、“医薬品として利用されている"という言葉のみで、“コエンザイムQ10を含む健康食品の情報"を医薬品と同等に判断することはできません。
 一般に医薬品の場合は、混在する不純物を除去して単一の化合物に精製した成分が用いられ、製造方法や成分含有量などがGMP基準 (薬事法に基づく品質管理基準) により厳密に規定されています。そのため最終的に有効性や安全性が明確にできるようになっています。一方、食品として流通している商品は、通常は品質を確保する規格がない場合が多く、含まれる成分の含量や純度は全ての製品で必ずしも一定というわけではありません。さらに健康食品には複数の成分が添加されていることが多く、もし製造時に添加された成分の中に有害成分が含まれていた場合、有効性を期待する前に安全性の問題が危惧されます。
 実際に、コエンザイムQ10の配合を謳っているにもかかわらず全くコエンザイムQ10が検出されず、違法に別の医薬品成分を添加していた事例 (5) がありました。また、コエンザイムQ10の吸収に影響する錠剤の溶解性を測定したところ、商品によってかなりの差があったという報告があります (6) 。これはコエンザイムQ10が多く含まれている商品を摂取しても、体内へは吸収されない場合があることを意味しています。
 以上のことから、医薬品成分と同じコエンザイムQ10が健康食品に含まれていても、健康食品として流通しているコエンザイムQ10商品はあくまで食品であることを認識することが重要です。そのためには効果よりもまず安全性を考えることです。コエンザイムQ10は一般的に高用量でも副作用が出にくく、かなり安全性が高いと考えられています。しかし、利用方法や利用対象者によっては絶対安全とはいえません。まれにでも過去に健康障害を起こした事例があるかどうかを知っていれば、たとえ問題が起きても素早く対応できるため、安心して利用することが可能になります。全ての健康食品に共通する事項ですが、健康食品を選択・利用する際には、日常のバランスのとれた食生活や運動が最も重要であることを常に認識し、科学的根拠の乏しい情報に振り回されず、必要ならば最小限の利用にとどめること、また安全性や有効性情報が良くわからない商品は利用しないことなど、冷静にその情報を判断してください。特に疾病治療中の人は自己判断で安易に利用せず、医師等の専門家に相談して利用することが重要です。
 コエンザイムQ10に関する網羅的な安全情報は素材データベースを参照してください。また、特に医薬品との併用に関する情報については下記の「4.医薬品との併用について」も参照してください。これらの情報はあくまで一般的な情報であり、特に他の成分との相互作用については、利用者の体質、コエンザイムQ10の商品 (コエンザイムQ10の品質、共存する他の成分など) によっても異なることを留意して下さい。


3.素材としての有効性情報
 一般に「健康食品」の有効性については多くの情報が氾濫しており、信頼性の高いものから低いものまで様々です。コエンザイムQ10も例外ではありません。そこで、現時点で見つけられた、最も信頼性が高いとされている研究デザイン (無作為化比較試験 (RCT)) による学術論文をピックアップしてみました。表2はヒト被験者にコエンザイムQ10を単独で摂取させてその有効性を検討した無作為化比較試験の結果です。さらに詳細はこちらをご覧下さい。



表2 コエンザイムQ10についてのヒト試験情報
心疾患 (心不全・狭心症・心筋梗塞)
有効性がある11件 (うち3件は同著者による報告で観察対象が重複している可能性あり。2件はメタアナリシス※で、対象論文が重複している可能性あり。)
有効性は認められない3件 
血圧
有効性がある3件 (うち1件はメタアナリシスで対象論文が重複している可能性あり。)
抗酸化効果
有効性がある3件 (全て同著者による報告で観察対象が重複している可能性あり。)
有効性は認められない4件 
糖尿病
有効性がある1件 
有効性は認められない2件 
その他
有効性がある1件
1件
1件
(パーキンソン氏病の症状悪化の抑制)
(肝硬変患者における掻痒と疲労感の軽減)
(抗ガン剤による副作用の緩和効果についてのメタアナリシス)
有効性は認められない1件 (ハンチントン氏病の症状悪化の抑制)
※研究デザインの一つで、複数の臨床試験を統合して再評価した論文を指す。

 

表2に示したようにコエンザイムQ10を用いた無作為化比較試験の中では、心疾患関連の研究が最も多く実施されていました。しかしながら件数の多さと有効性の確かさには必ずしも関連があるわけではありません。心疾患に対するコエンザイムQ10の有効性を示した初期の研究は、いずれも被験者数が少なく観察期間も短いものでした。また、近年の大規模な無作為化比較試験ではその有効性は示されていません。心疾患に対する治療目的でのコエンザイムQ10の影響について一致した見解を得るには、現時点では根拠が不充分なため、更に大規模で信頼度の高い研究デザインの報告が多数必要であるという意見 (PMID:12420040) (PMID:14695924) もあります。上記のような理由から、米国心臓学会/米国心臓協会ではコエンザイムQ10の治療目的での摂取について「心不全の治療には更に多くの科学的根拠が蓄積するまで推奨できない」 (7) 「慢性安定狭心症の治療には有益および有効ではない」 (8) と位置づけています。
 他の症状や疾病に対する有効性についても、いずれも報告数が少なく試験の規模も小さいことから、コエンザイムQ10の効果についての結論を得るには今後さらに多くのデータの蓄積が待たれます。また、俗に謳われている肥満解消や美容に関する無作為化比較試験は見つかりませんでした。


4.医薬品との併用について
 既に疾病を持つ方が治療目的で健康食品を摂取されることは、望ましいことではありません。健康食品はあくまでも日常の食事の補助的なものであり、病気の治療に用いるものではありません。病気の時は医薬品を用いた治療が基本です。また利用するとしても医療従事者のアドバイスを受けて利用することが必要です。
 健康食品は、基本的に誰でも自由に自己判断で利用できるものですが、その必要性を判断する基準としては、利用するときのメリット・デメリットのバランスを考えてみることです。たとえば、科学的な根拠のある治療を行っている条件で、「科学的根拠の不明確な健康食品」を同時に利用することは、治療にどのような影響を及ぼすか予測できず、メリットよりもデメリットの方が高くなるかもしれません。どうしてもコエンザイムQ10と治療薬を併用したいという場合は、必ず主治医の方にその旨を伝えて、了解を得ることをお勧めします。
 以下はQ&A形式で作成した治療薬とコエンザイムQ10の併用等に関する参考情報です。

■Q: コエンザイムQ10と降圧剤または血糖降下剤を併用しているが大丈夫か?
■A: 悪影響があるためコエンザイムQ10を直ちに中止しなければならないということはありません。しかし、併用する場合は常に血圧や血糖値の検査値の変動に注意する必要があります。
 コエンザイムQ10を多量に摂取した条件で、本態性高血圧患者で血圧が低下する場合があること (PMID:7752851) 、II型糖尿病患者で血圧とヘモグロビンA1cが低下する場合があること (PMID:12428181) がそれぞれ報告されています。このことから、コエンザイムQ10を高血圧や糖尿病の治療薬 (降圧剤や血糖降下剤) と併用すると薬の効果を増強してしまう (薬が効きすぎてしまう) 可能性が考えられます。このときのコエンザイムQ10の摂取量は、1日当たり200 mg以上とかなり多量です。しかし、どの程度の摂取量であれば、相互作用は起きず安全かは明確ではありません。現時点で、医薬品と相互作用を起こさない安全なコエンザイムQ10の摂取量に関する充分な科学的根拠は蓄積されていません。最も注意しなければならないことは、コエンザイムQ10が血圧や血糖値を低下させるという情報を鵜呑みにしたり、「食品は安全で、医薬品は副作用があるから」などの考えによって、自己判断で医療機関から処方されている治療薬の服用を止めてしまうことです。そのような対応をしてしまうと病気が進行して取り返しのつかない状態になってしまう可能性があります。
 他の医薬品についてもコエンザイムQ10と相互作用に注意する必要があります。詳細はこちらをご覧ください。

■Q: 高脂血症治療薬 (スタチン) 服用によりコエンザイムQ10が不足すると言われていますが?
■A: コエンザイムQ10のイソプレン側鎖が合成される過程は、コレステロールが合成される系と共通で、この経路はHMG-CoA還元酵素が主に調節しています。高コレステロール血症の治療薬であるスタチン類は、HMG-CoA還元酵素のはたらきを阻害することでコレステロールの体内での合成量を減らす作用がありますが、共通の系でコエンザイムQ10も合成されているため、同時にコエンザイムQ10の体内での合成量も減少させます。スタチン服用中の患者で、筋肉 (PMID:16003294) や血液中 (PMID:15942122) (PMID:8254097) のコエンザイムQ10濃度が減少するという報告があります。

 

 しかし、スタチン服用による筋障害発症のメカニズムは不明な点が多く、コエンザイムQ10の摂取がスタチンの副作用を抑えるという確証は得られていません。スタチンによる治療にコエンザイムQ10を併用すると血中のコエンザイムQ10の濃度低下を抑制したというデータ (PMID:7752830) はありますが、筋障害抑制作用が期待される筋肉中のコエンザイムQ10濃度への影響について検討した報告は現時点では見あたりません。また、どの程度まで低下すればコエンザイムQ10欠乏になるのかという値や検査基準などについては、まだ充分なエビデンスが蓄積していないため、今後の研究成果が期待されます。

5.適切な摂取量について
 コエンザイムQ10は一般的に高用量でも副作用が出にくく、かなり安全性が高いと考えられています。多量に摂取した場合に軽度の胃腸症状 (悪心、下痢、上腹部痛) が報告されているものの、ヒト臨床研究では有意な副作用は認められていません。しかし、ビタミンのように食事摂取基準による推奨量や上限値などは策定できていません。つまり、ヒトが一日に何mgのコエンザイムQ10を摂取すべきかについてはまだよく分かっていません。
 日本では、医薬品として使用する場合のコエンザイムQ10の上限量は1日に30 mgです。一方、食品として流通している海外メーカーコエンザイムQ10製品のその含有量はこの医薬品上限量を遙かに超えており、日本の健康食品でも医薬品として用いられる量を超えた製品が流通しはじめています (9) 。過剰摂取を防止する観点から適切な摂取目安量を設定するための取り組みとして、食品安全委員会で専門家による検討が行われましたが、現時点ではデータが不足しているため、コエンザイムQ10の安全な摂取上限量を決めることは困難という結論となっています。これを受けて厚生労働省は、「コエンザイムQ10を含む食品の取り扱いについて」という通知 (食安新発第0823001号) を出しています。その内容は、1)食品中の成分が、医薬品として用いられる量を超えないように指導している  2)個別の製品の安全性については、事業者により適切に確保される必要があり、事業者の責任で、用量を考慮した長期摂取での安全性の確認、摂取上の注意事項の消費者への提供、消費者の健康被害事例を収集させる等指導を徹底する  というものです (10)



参考文献

(1) Melanie Johns Cupp、 Dietary Supplements: Toxicology and Clinical Pharmacology、2003、p53-85、Humana press
(2) Morton R.A., Wilson G.M., Loew J.S., Leat W.M.F. (1957) Ubiquinone. Chemical Industry, p1649
(3) J. Am. Chem. Soc.; 1958; 80(17) p4753-4753 (http://pubs3.acs.org/acs/journals/doilookup?in_doi=10.1021/ja01550a097)
(4) 平成13年6月28日付食基発第20号医薬局食品保健部基準課長通知「「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り食品と認められる成分本質(原材料)」の取扱いについて」
(6) Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 31(7)505-10(2005)
(PMID:13445756) Biochim Biophys Acta. 1957 Jul;25(1):220-1.
(PMID:13622652) Nature. 1958 Dec 27;182(4652):1764-7.
(PMID:5086647) Int J Vitam Nutr Res. 1972;42(3):413-34.
(PMID:12420040) Can J Cardiol. 2002 Oct;18(10):1054-8.
(PMID:7752851) Mol Aspects Med. 1994;15 Suppl:S265-72.
(PMID:12428181) Eur J Clin Nutr. 2002 Nov;56(11):1137-42.
(PMID:16003294) Clin Pharmacol Ther. 2005 Jul;78(1):60-8.
(PMID:15942122) J Atheroscler Thromb. 2005;12(2):111-9.
(PMID:8254097) J Clin Pathol. 1993 Nov;46(11):1055-7.
(PMID:7752830) Mol Aspects Med. 1994;15 Suppl:s187-93.
(11) Lucker PW, Wetzelsberger N, Hennings G, et al. Pharmacokinetics of coenzyme ubidecarenone in healthy volunteers. In: Folkers K, Yamamura Y, eds. Biomedical and clinical aspects of coenzyme Q, vol. 4. Amsterdam: Elsevier Science Publishers, 1984:143-51
(5) 厚生労働省報道資料
(7) ACC/AHA 慢性心不全治療診断ガイドライン2005
(8) ACC/AHA 慢性安定狭心症治療ガイドライン2005
(9) 厚生労働省資料
(10) 厚生労働省資料
(PMID:14695924) Biofactors. 2003;18(1-4):91-100.