α-リポ酸の安全性・有効性情報 (痩身効果との関連) (ver.111104)

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最近、「α-リポ酸 (α-Lipoic acid) が体脂肪を減らす」との報道に伴って、α-リポ酸を配合して痩身効果をうたった健康食品が急増しています。そこで、α-リポ酸に関して現時点で見つけられる情報を調査してみました。

■α-リポ酸とは
 α-リポ酸はチオクト酸 (Thioctic acid) とも呼ばれる物質で、その酸化体のβ-リポ酸と区別するためα-リポ酸と呼ばれています。α-リポ酸の一部は体内で還元され、SH基を持つジヒドロリポ酸に変化します (図参照) 。書籍によってはα-リポ酸をビタミンと記載しているものもありますが、α-リポ酸はビタミンではなく、ビタミン様物質として扱われています。ちなみに、ビタミンの定義は、「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず、人間の体ではつくることができない、あるいはつくることができても量的に不十分であるため、食べ物などから摂取しなくてはならない化合物」です。
 α-リポ酸は医薬品成分として利用されていますが、2004年3月の「医薬品の範囲に関する基準の一部改正」により、食品にも利用できるようになりました。

■医薬品としてのα-リポ酸
 医薬品としてのα-リポ酸は、チオクト酸 (注射用、10 mgから25 mg) 、チオクト酸アミド (経口で1日1.5 mgから15 mg) として利用されています (厚生労働省医薬発第283号) 。その適用は、「激しい肉体疲労時にチオクト酸の需要が増大したとき」、「亜急性壊死性脳脊髄炎」、「中毒性 (抗生剤のストレプトマイシン、カナマイシンによる) および騒音性 (職業性) の内耳性難聴」となっています。ただし、効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきでないという注意があります (1) 。副作用 (頻度は不明) は食欲不振、悪心、下痢です。
 α-リポ酸に関する論文としては、抗酸化作用に関連した基礎的な研究論文が多く出されています (PMID:7649494) (PMID:9378235) 。今話題になっている痩身効果とα-リポ酸の関係についての論文を検索したところ、肥満や体重減少、エネルギー消費量増大に対する影響についての論文は、そのほとんどが動物試験あるいは試験管内実験のレベルであり (PMID:15567171) (PMID:15566320) (PMID:15195087) (PMID:12837769) 、ヒトにおいてα-リポ酸を経口投与して体脂肪の減少を評価した信頼できる論文は見あたりませんでした。従って、現時点ではヒトにおいてα-リポ酸に痩身効果があるかどうかは不明であり、今後の科学的な検証が必要であると考えられます。

 ヒトにおけるα-リポ酸の安全性や有効性については次のような事項が報告されていますが、これらの情報は薬物治療量のα-リポ酸を投与した条件で得られた効果であり、食品として摂取した場合の効果と必ずしも一致しないことに留意して下さい。

■ヒトにおける安全性情報
 特定条件における多量摂取の安全性の検討 (PMID:10480774) などから、チオクト酸として1日量5 mgまで、チオクト酸アミドとして1日量15 mgまでで服用が長期間にわたらない場合、安全性が示唆されています (厚生労働省医薬発第283号) 。ただし、遺伝性素因を持つ者は特別な注意が必要です。また,妊婦・授乳婦等における安全性については信頼性の高いデータが十分に得られていないので使用は避けることが妥当です。

 α-リポ酸摂取で注目されるインスリン自己免疫症候群の発症
 α-リポ酸摂取が原因と推定される有害事象として、インスリン自己免疫症候群 (Insulin Autoimmune Syndrome: IAS) による低血糖発作があります。
 IASはインスリンの注射歴がないにもかかわらず、インスリンに対する自己抗体が出現し、その抗体に結合したインスリンが容易に遊離することによって低血糖発作を起こす症候群で、SH基を持った薬物によって発症することが報告されています。IASは1970年、平田らによって初めて報告され、日本人では1970年から1992年までに197例、1993年から1997年までに47例が報告されています。この244症例をみると、発症数は男性、女性共に60〜69歳が最も多いと報告されています。また、IASの症例の90%は東アジア、特に日本において報告されています。これは欧米人に比べ、多くの日本人がIASの発症に関係していると考えられるヒト白血球抗原 (HLA) の中のDR4 (DRB1*0406) を持っているためと考えられています (日本人は4〜8%、欧米人は1%未満) (20080504679) (PMID:10717808) (PMID:10445096) 。2003年にα-リポ酸摂取によるIASが初めて報告 (2003186651) されて以降、急増しています (2008352708) 。以下にα-リポ酸により誘発されたと考えられるIASの症例報告をまとめました。

患者

主訴

摂取期間

予後

HLA型

参考文献

34歳女性

動悸と手指の振戦

2週間程度

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406)

2008050467

41歳女性

めまい、動悸

間欠的に摂取 (期間不明)

摂取中止により回復

不明

2008162769

48歳女性

冷や汗、吐き気、めまい、寒気

1ヶ月程度

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406)

2008035359

36歳女性

空腹時異常飢餓感、振戦、発汗異常、思考力低下、浮遊感

1ヶ月程度

摂取中止により軽減

不明

2008099436

36歳女性

脱力感、倦怠感、四肢の震え

2〜3週間程度

摂取中止により回復

不明

2007335596

44歳女性
(糖尿病罹患 (HbA1c7.8))

咽頭痛、微熱、口渇、全身倦怠感、吐き気、嘔吐、意識朦朧、低血糖は認められず、糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) のみ発症

1ヶ月程度

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406)

2008352708

35歳男性

発汗、震え

4ヶ月

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406)

2008007916

64歳女性

冷や汗、震え、脱力感

3ヶ月程度

摂取中止により改善

DR4

2007242530

45歳女性

空腹時の冷や汗、気分不快、低血糖昏睡

3週間程度

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0403)

2009082096

44歳女性

低血糖症状

1ヶ月程度

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406) 、 (DRB1*0901)

2007123925

23歳女性

空腹時の手指の震え、舌のしびれ感、全身皮膚発赤、皮疹

3日間
(表示よりも過剰摂取)

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406)

2008271711

41歳女性

低血糖症状

間欠的に4週間程度

摂取中止と薬にて治療

不明

2008125166

40歳女性

低血糖発作

数ヶ月前に摂取 (期間不明)

不明

DR4 (DRB10403)

2007343326

44歳女性

空腹時の脱力感、手指の震え

1.5ヶ月程度

摂取中止により軽減

DRB1*0406-DQB1*0302

2007110805

44歳女性

空腹時に脱力感、手指の震え

1.5ヶ月程度

摂取中止により回復

DR4 (DRB1*0406)

2008188473

66歳男性

空腹時低血糖発作

3ヶ月程度

摂取中止により回復

DRB1*0406 (+)

2006288585

30歳代女性

空腹時のめまい、手指のふるえ

1ヶ月程度

摂取中止により回復

DRB1*0406

2006300144

44歳女性

脱力感、手指のふるえ

1.5ヶ月程度

摂取中止により軽減

DRB1*0406

2007110805

44歳女性

低血糖症状

不明

不明

DRB1*0406

2006264486

44歳女性

低血糖症状

1ヶ月程度

不明

DRB1*0406

2006297299

38歳男性

低血糖発作

不明

摂取中止により回復

A24.A31

2006297522


■ヒトにおける有効性情報
 糖尿病に関連した研究報告があります。α-リポ酸を600〜1,800 mg/日、4週間経口摂取させたII型糖尿病患者において、インスリン感受性および糖代謝能の改善が認められたという報告があります (PMID:10468203) 。また、糖尿病患者において800 mg/日、4週間のα-リポ酸の経口摂取は高血糖の持続状態の指標となるヘモグロビンA1cには影響しませんが、心性自律神経障害をわずかに改善するかもしれないという報告があります (PMID:9051389) 。その他にも糖尿病に対する効果を検討した情報がありますが、それらはα-リポ酸を静脈注射したときの研究結果です。
 α-リポ酸に効果がなかったという情報もあります。それはアルコール性肝障害に対して、300 mg/日を6ヶ月間にわたって投与しても、プラセボ (偽薬) を投与した場合と比較して症状の改善が認められなかったという報告です (PMID:6129179)

■その他の情報
 ネコへの経口投与の最大耐量 (MTD) は13 mg/kgであり、60 mg/kg投与時では、摂食量の低下、過流涎、過剰興奮、運動失調などが認められ、死亡例も観察されたという報告があります (PMID:15059240)

 α-リポ酸は医薬品成分としても利用されていることから、効果を期待する方が多いと思います。しかし、何らかの効果があるということは、利用方法によっては期待しない効果 (有害作用) が発現する可能性も示しています。さらに、商品を製造するときに添加されたα-リポ酸の純度、α-リポ酸以外に添加された成分の影響などがあり、「α-リポ酸という成分」に関する情報と「リポ酸を含む商品」の情報は、必ずしも一致しません。
α-リポ酸と同様、ビタミン様物質として注目されているコエンザイムQ10では、偽コエンザイムQ10商品が存在していたという事例もあるので、健康食品を選択・利用する際には、科学的根拠の乏しい情報に振り回されず、日常のバランスのとれた食生活や運動、休養 (健康づくりの三要素とも言われています) が最も重要であることを常に認識し、冷静にその必要性を判断してください。



参考文献

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